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Cuteな彼女は俺の彼



 俺の朝は、校門で登校する生徒達をチェックする事から始まる。

「おはよー田城!」
「おはようございます、田城先輩。」

 目の前を通り過ぎるクラスメイトや他の生徒達が、俺に声をかけつつ校門をくぐって行く。高校に入りもうすぐ三年になる俺だが、何の因果か現在【風紀委員長】なんていう役職についているせいか有名人だ。だから俺の名前を知らない奴は学内には存在しなかった。

「はよー、田城。今日も朝早ぇーな!」
「あぁ、おはよう。あ、矢島ちょっと。」
「あー?」
「ネクタイどーしたよ?」
「あー、わり。急いでたから鞄ん中だわ。ほら。」

 ごそごそと鞄を漁る矢島が俺によれよれなネクタイを見せて笑う。もっと早く起きろと言えば無理だってーとかゲラゲラ笑いながら校舎へと消えて行った。
 矢島がネクタイを付けていない事は校則違反ではないので注意しかできない。基本的にシャツ、ブレザーとズボンについての明記はあるがネクタイについての明記はないからだ。
 これが、シャツを着ていないとかブレザーを改造しているのであれば、即生活指導室行きとなり俺はそれを連行する義務がある。

 そして、俺はため息をついた。今日もやっぱり生活指導室行きが決定したからだ。

「おっはよー、田城くん!」

 俺を見上げているプリーツスカートの制服姿の美少女。嬉しそうに俺に挨拶をしているが、これがここ最近の俺の悩みの種だ。

「草薙、いつになったら制服を着てくる気だ。」
「むむー、みゆきちゃんと制服着てるよ!」
「みゆきって誰だ。クサナギヨシユキ。」
「よしゆきって言うなー!」

 両手をぐーにして俺の胸元をぽこぽこ叩いてくるこの美少女。
 察しのいい方ならもうおわかりだろう、こいつの名前は「草薙 美雪」と書くが、けしてミユキではない。ヨシユキだ。

 いくら女子の制服であるブレザーにプリーツスカートに紺色のハイソックスが似合っていようが、茶色の長髪をツインテールにして可愛らしいリボンをつけているのまで似合っていようが、こいつは正真正面の男だった。しかも、俺の家の3つ先に住んでいる幼馴染なのである。
 せめてこれが、世に認められた同一性なんたらで女装しているのだとすれば俺も目をつむるだろう。
 しかし目の前の草薙は違うのだ。その証拠に、こいつは俺が朝当番の時にのみ女子の制服を着て登校していた。普段はちゃんと男子の制服を着ているんだよ。

「お前は草薙 美雪。よしゆきだろうがっ」
「んきゃあっ、痛いよやっちゃあん!」

 俺の名前の田城 刃(たしろ やいば)を愛称の「やっちゃん」と叫ぶツインテールの頭を問答無用に鷲掴み、生活指導室へとずるずる引きずって歩く。こいつ160ないから185ある俺からは子供サイズに近いから軽々なんだよ。
 校門には俺以外にも風紀委員がいるので問題はないだろう。




「もーー やっちゃん横暴! みゆきせっかく可愛く結べてたのにー」

 生活指導室のドアを閉めたところで、草薙はワントーン高くしていた声を元来のものに戻してぐしゃぐしゃにされた髪からリボンを取っている。それでも女装に遜色ないくらいの甘いテノールだから、この男は何者なんだろうかと俺は時々頭を抱えたくなった。

「みゆきじゃないだろ、ヨシ。髪はせめて1つ結びにしろ、制服はズボンを履けっ。今回で注意は10回目だぞ。なんで急にそんな女装してくるようになったんだ…しかも俺の当番の時ばっかり…」
「むー、やっちゃんのバーカ」
「はぁ?」

 俺が始末書を見ながら言うと、草薙は男とは思えない可愛らしい顔で頬をふくらませる。何が馬鹿だ馬鹿はお前だろ校則違反め。

「…だって……じゃんー」
「何だよ?聞こえないぞ。」
「…うぅ…鈍感…」

 むーと睨まれてもなぁと俺は肩を落とす。

「お前な、さすがに10回目ともなると職員会議にかけられるぞ。理由があるなら聞いてやるからさっさと言え。お前、アレなのか? 本当は女に生まれたかったのか?」
「ち、違う!…ある意味違わないかもだけどー…」
「…ある意味?」

 言っている意味が分からずに首をひねれば、草薙は顔を赤くしながら何でもないとそっぽを向いた。

 だからそれじゃ駄目だろ。
 
「ヨシ、言わねーとさすがに俺もコレ持ってかねーとなんなくなるぞ。5回目以降はまだ報告してないんだからな?」
「…えっ」

 校則違反が多いと職員会議にかけられるのは全校生徒が知っている事実だ。しかしそれが何回目でその対象とされるかは職員次第なので、俺は草薙が5回目の女装登校をしてからは職員室への報告にはそれを含めていない。
 幼馴染が厳罰に処されるのを、なんとか俺の説得で回避できればと思っていたからだ。

 俺がそう言えば、草薙はしゅんとうなだれた。

「…で、どうなんだ。何が理由なんだよ。」
「……ごめん、僕…」
「落ち込むのは話をしてからにしろよ。謝るなら明日からスカートじゃなくズボン履いてこい。」
「…うん。あの、ね。」
「あぁ」

 もじもじと、まるで乙女のように膝の上で両手を合わせて指をつんつんしている姿すら似合うとかどんだけ女っぽいのだろうか。
 俺がそんなことをぼんやり思っていれば、草薙は意を決したのかふいに顔を上げて、口を開いた。

「やっちゃんと居たかったから、女装してたの!」
「…はぁ?」
「だかね…校則違反したら、今みたいに、ここで、その…大好きなやっちゃんと二人きりになれるから。」

 何だそりゃ。
 つきあいたての彼女みたいな事を言われて俺はぽかんとする。

「あ、あのもちろんコレは僕の一方的な気持ちだからさっ、やっちゃんが迷惑ならもうしないよ。」
「…は?」
「ご、こめんね、気持ち悪いよね。」

 おどおどと見上げる姿もこれまた美少女で可愛らしい。幼馴染でしかも男である事を除けば、間違いなく好みだと思う。

 ん? 俺、こいつの顔とか好みだったのか?

「それに僕、女の子みたいにしてたら何故かやっちゃん乱暴な事しないで優しいから嬉しくて。元々可愛いの好きで女装とかしてみたかったし…」

 だからつい、この格好で来ちゃったんだ。草薙はそう言って少し悲しげに微笑んでいる。
 たぶん俺が返事をしないから、引かれたとか思っているのだろう。

「…いや別に、気持ち悪くはねーし。」
「…え?」
「お前が可愛いものとか好きなのは知ってっし。…その格好も校則違反だけど、似合っちゃってるしなぁ…」
「えへへ、ほんと?」

 似合ってると言われて嬉しいのか、お前。まぁいいけど…じゃなくて!
 俺に構われたくて女装までする男の幼馴染に、引くどころか何故だか胸がドキドキしている時点で、俺はもうヤバイんじゃないんだろうか。

「あのなぁ、それとこれとは話は別。集団生活の規則くらい守れよ。」
「…はーい。でも、そしたらやっちゃんと一緒にいる時間減っちゃう…」

 クラスだって2年になったら離れて寂しいのに…って小さい声。なんだこのいじらしい生き物!

「お前小声で聞こえないつもりだろうけどここ狭いから聞こえるんだよ。そんなに俺といたいのかよ。」

 そう言えば昔からこいつは俺べったりだったなぁなんて思う。小さい頃はただの友情だっただろうに、どこで間違えたんだろうかこいつは。

「…いたい、けど、やっちゃんが嫌なら…我慢する。」
「あーもう!」

 俺は思わず机をバンと叩いてしまって、それに草薙がビクリと肩を震わせた。その顔が、涙目がいつも以上に可愛く見えたりするのはどうしてなのか、考えるのは後にしておこう。

「…ご、ごめんね…」
「や、違ぇよ。何なんだよ、ヨシ。」
「…えっ…何って…ふぇっ?!」

 草薙が声を上げられなくなったのは、俺がその椅子に座っている体を後ろから抱きしめたからだ。ふわりと髪から甘く香るのは、シャンプーの匂いだろう。

「もーお前かわいすぎ。」
「…えっ、えっ?!」
「明日から早起きすればいーだろ。そしたら迎えに行ってやるから。」
「…えっ、そ、それって…」
「風紀の手伝いって事にしといてやっから隣にいりゃいーだろ。眠ければ別にいーけどな?」

 どうする? だなんて思わず意地悪を言いたくなって、そんな事を言ってしまう。
 もちろん草薙が答える言葉なんて分かり切っていたけど、その顔がだんだん嬉しそうな笑みになるのを眺める時間が欲しかったのだ。


 数秒後、俺の前でかわいらしく微笑んで返事をする草薙だけど、俺がその日の下校中、『両想いだったんだから、俺達付き合うか?』なんて言ってその顔を号泣させてしまったのはまた別の話。


Fin...?



田城 刃(たしろ やいば)…高2 男前風紀委員長 185cm
草薙 美雪(くさなぎ よしゆき)…高2 女装美形 157cm

※共学。制服はブレザーは共通で女子はプリーツスカート。





※作中にある表現はその障害への差別的なものではなく、「草薙がそうであるなら女子の姿でいることは当然だと認める」という意味です。お間違えのないようお願いします。

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2010/10/29