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俺と先輩と時々BL その3




 空高く馬肥ゆる秋です。食欲でも読書でもいい。とにかく秋なんだよ。

 そして秋と言えば学園祭ですよね、分かります。

 これはあれだよね、クラスの出し物が『執事・メイド喫茶』なんてのになっちゃった健気で可愛らしい受けが、不本意ながらもクラスメイトにメイドを押しつけられちゃったりして短めのスカートを気にしながら真っ赤な顔をして接客するって鉄板イベントの予感だよ!
 でさ、そこに柄の悪いお客様が来て絡まれて、ちょうど良く溺愛攻めの美形さんが嫉妬とかいろいろないまぜになった感情のままに受け子ちゃんを空き教室に連れていくんだよ。そんで受けを美味しくいただいちゃうオチになるイベントだと思うんだ。

 あれ俺説明長い?まぁ細かい事は気にしないでくれ、うん。
 けして俺の服装がメイドだと言う事も気にしてはいけない、むしろ忘却の彼方へやってくれたら嬉しいよ。
 なぁ、何で俺がメイドなの?
 平凡でちょっと腐ってるだけの俺がメイドなんてやってんの?涙出そうだぜ…

「いらっしゃあいまぁせぇー!【メイド喫茶@あくまるん】をどうぞよろしくぅ〜」
「よろしければお越しいただけると嬉しく存じます、お嬢様。…加納、真面目にやれ。刺すぞ?」

 うっ。隣からブリザードが襲ってきたよ!俺今スカートだから風邪ひいちゃうよ!

 現在メイド服を着せられている俺の横には、クラス一の男前さんが執事服で営業をしていらっしゃるんだぜ。あまりのカッコ良さにさっきから女性客がきゃーきゃー言いながらうちのクラスへ向かっていくのがすごい。美形ってすげぇな。
 執事姿のクラスメイトは、桐生院 依織(きりゅういん いおり)って言うどこの有○倶●部のキャラですかって名前の男だ。俺と同じ高校一年なのにさらりとそんなの着こなしちゃえる長身な男前ってところがそらもう憎いね。
 しかもこいつ頭良いし運動神経も抜群なんだよな…
 天は二物を与えずっていうのはあくまで一般論だよ美形は違うよっていう見本だと思うね。

「……桐生院に刺されたら俺死んじゃうじゃん。」
「心配するな、苦しませずに一撃で仕留めてやるから。」
「ちょ、やめてくれませんかね?指くらいなら差し上げますからぁー」

 目が笑ってない返答にそう返すしかない。この人極道の息子さんなんですよ奥さん!命取られるくらいなら指数本の方がいいよ本当!

「冗談に決まってるだろう?それにカタギの指なんざいらん。しかしお前は真面目にやれないのか?」
「ひぃ。いやだってさぁ…俺のこんな姿ギャグもしくはマイナスにしかなんねーっしょ?真面目にって可愛く呼び込めって言うのかよ?」
「…それに関しての詳細コメントは控えるが、笑顔は気持ち悪くないと思うぞ。可愛くは無理でも、多少愛想よくできるだろう?お前は人がいいから得意そうだ。」

 それフォローのつもりかもしんないけどさ、じゃあ笑顔じゃなければ気持ち悪いのかよ!と突っ込みたいよ桐生院。それに人がいいってあまり褒められた気がしないんだけどそう思うのって俺だけ?

 冷たい視線を俺から離した男前に背を向け、廊下で呼び込みのチラシ配りを再開する。
 まぁ男子校でメイド喫茶してる時点でいろいろアウトな気もするが、同じクラスの奴でもまるで女子みたいなのもいたのになんで俺が呼び込みなのか謎だ。どうもこれってフラグが立ちそうな気がして寒気がするよ。

「へぇ、メイド喫茶かぁ?あんたが相手してくれんの?」

 うわ、なんか何こいつって言うのに声かけられちゃったよ!
 そいつの服装は不良高校と名高い学校の制服っぽい何かで(というのもあまりにボロボロで定かではない)、しかもピンクのツンツン頭に襟足あたりからひと房だけ長くエクステみたいな髪が背にかかっているのだ。
 いくら不良である先輩と友人関係を築いているとは言え、怖いものは怖い。ポケットに入れている携帯に、目の前の奴にバレないよう服の上からボタン押しを試みる。

「なぁアンタ、下着も女もんなの?」
「えっ、ちょ、な、うぁっ?!」
「お、色白いなぁアンタ…なんだぁボクサーかよー、あ、でも肌すべすべー」

 ぎゃああ!こいつスカートに手ぇ突っ込みやがった!!

 助けを呼ぶべく辺りを見回したけど、さっきまで一緒だったはずの桐生院はいなくて(たぶん女性客にでも案内させられているに違いなく)、廊下にいる他の人達も明らかに不良なこの変態を止めることはできないようだった。

「あ、あのーやめてもらえませんかね?」
「あ゛?なんでだよ。メイドはご主人様の言うことを聞くもんだよねぇー?」
「いやだって、俺メイドの格好してるだけだし。」
「口答えするとその可愛い口ふさいじゃうよー。あ、ここじゃ嫌ならどっかいこーか?」

 うわぁ、なんてお約束な台詞を!俺相手じゃなければ萌えるのにっつーかこれ犯罪だから萌えたらダメだ、絶対。

「いや、そのっ、こ、ここじゃとかじゃなくて、触られること自体がそのですね…」

 野郎に触られる趣味ないですからと言おうとしたら、ピンク頭が顔を近づけてきやがった。唇尖らせたりしてて、心底気持ち悪い。

 ぎゃああああ!誰かーー!
 心の中では叫べるんだけど、実際は怖くてろくに声が出せない。なんとか必死に顔を背けて後ずさって難を逃れるので精いっぱいだ。

「お願いしますから離して」
「お願いでも聞けないなぁー、大丈夫だいじょーぶ!気持ちよくしてあげるからさ!」

 そういう問題じゃないからと言いつつ泣きそうになった俺は、息がかかるほど近づいてくるそいつに真っ青だ。
 ひー生温かい息がかかってるよ!しかもこいつ焼きそばかタコ焼き食ってきやがったなソース臭ぇぇええ!

「ひぁっ…!」
「…お、いい声できるじゃねーの。」

 首!首をな、舐められたぁああ!!しかも、シャツ開けられて手を突っ込まれてるし、ちょっと本気で気持ち悪いぞこれ!

「んー、なんか香水つけてんの?アンタいい匂いがすんねー」

 お父さんお母さん、加納 静馬16歳、今日ここでいろんなものを無くすフラグが立ちました。
 ピンク頭さんが俺の首筋を舐めた上にすんすん鼻すりつけてるんだけど、結構ホールドする力強くて振り解けません。しかも半ば抱えられる感じで移動させられつつあるんだ。もう泣いていいよな。うん、泣こう。
 不良の手が太股や胸の上を撫でる感覚に悪寒がひどくて吐き気すらしてくる。

 先輩だったら、こんなことないのにと思う。そう、何故だか先輩の温かい手を思い出したのだ。

「うぅ、こんなのに初めてを掘られるくらいなら、先輩が言った時にやっとけば良かった…う゛うっ…」
「他の男の事考える余裕があるんだ。へぇ…」
「…ううっ…美形でも総長クラスでもないモブキャラっぽいピンク頭なんかに食われるなんて、人生の汚点だぁ…っ」
「…はァ?何言って…ぐぁっ!?」
「!!」

 俺が自分の身を嘆いて自棄になった言葉を続けていると、急に不良が目の前から壁へと飛んで激突した。次の瞬間俺の視界を覆ったのは、まっ白い色と誰かの温もりだ。

「静馬、大丈夫か!?」

 …え、何これ何のフラグ? 何で俺先輩に抱き締められてんの?! 先輩が攻めキャラなのは分かるけど、俺相手じゃ萌えないよ?!
 しかもなんかいつの間に空き教室に?!

「フラグも何も、今そこでピンク頭のがメイド姿のお前を連れてったって聞いたから追って来たんだが…お前が無事で良かった。」

 ちょ、エスパー?!

「いや、お前口に出てるし。それにお前のそんな顔を他の奴に見せたくなくてな…」
「…ぅええ?!」

 だから空いてる教室に連れて来たんだと言った先輩にぎゅっときつく抱きしめられ、何故かひどく安堵して思わず目を閉じた。
 と同時に先ほどの恐怖が蘇ってきたのだろう。その最中は平気だったのに怖かったと思ったと同時に涙がつぅと頬を伝い、カタカタと体が震えてくる。

「…しずま?どこか、痛いのか?!あいつに何をされたんだ…?」
「…痛くない、です。でもあちこち触られて…」

 おろおろする先輩に首を左右に振るけど、涙がなかなか止まってくれない。声を上げて泣くわけじゃないから周りの人間にはバレてないかもしれないが、先輩は俺の泣き顔に困っている顔をして覗きこんでいる。その大きな手が頭を撫でて何度も『もう大丈夫だからな』と言ってくれた。

 先輩って【受けのピンチに偶然にも助けに来る溺愛攻めタイプ】なんだなぁ。…なんて、こんな時に考えるのは自分に起こった事を他人事にしたいからかもしれない。

 先輩と俺なら、それはもう仕方ないけど俺が受けなのは明白なわけで、あぁ鉄板な展開の受け達はこうして落とされるんだなぁと、妙に納得した。

 …って、違う!!!俺は別に落とされてない!!!

「あ、ありがとうございました。も、もう平気ですから!」
「そうか。ならお礼をくれよ。」
「…え。」
「さっき言ったろ。初めては俺にやっとけばよかったって。」
「……っ!!」

 聞かれてた!!!
 真っ赤になった俺は自分の顔を両手で覆う。そんな俺の耳に届く蕩けるような声。

「な?俺でいいなら、今もらってもいいよな?」
「え、えーと俺、そんなこと言ってないですー」
「言ってたろーが。」
「いやぁ、先輩の聞き間違いじゃないですかね?」

 俺は無理やりにでもしらばっくれる事にする。
 いやだって、なんかさっきから向かい合って膝に抱っこされているんだけどね、先輩のアレが俺の太股にあたってるんだよね。つまりあれだ、この人今ここで致したいっておっしゃっているんだよね。それは勘弁してほしいです!今の格好メイドだし!!

 あ、いや、服装が違えばいいとか、そういうわけでもないぞっ!

「な、言ってただろう?」
「…だが断る!!」
「は?うぐっ?!」

 渾身の肘鉄を先輩の脇腹にお見舞いして、俺は空き教室から全速力で逃走した。クラスに戻っても結果は見えているので寮の部屋に戻って籠城である。

「いやいやうん、俺は先輩に落ちてない、落ちてないぞ!!」

 携帯の電源を切って布団を被って部屋のドアに二重ロックをかけた俺に、翌日先輩が謝り倒してきた。
 それで許してしまう俺は、もしかすると半分くらいは先輩に落ちているのかもしれない…悔しいけどな。
 だが、それを先輩に教えてやるつもりは毛頭ないのだ。


……いずれ俺が自分で逃げられなくなるくらい自覚する時が来るなら、それまでは傍観者で居させてください。






その2

2010/10/06

※桐生院 依織が1年なのは仕様です。本編では高校2年で登場しています。つまりそういう時間軸だとご理解くださいm(_ _)m