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事後承諾でもいいじゃない


美形王子×平凡高校生 / 異世界トリップ




『目を開けるとそこは異世界でした。』


 なんてのは物語の中で言う言葉であって、けして現実的な言葉じゃないと思う。

 そもそもアレだ。確か俺はさっき授業のバスケの試合をしてて、しかも相手チームの(と言ってもクラスメイトだが)背の高い奴がゴールを決めようとしたのを妨害した時に、シュートジャンプしたそいつが俺に覆いかぶさるように落下してきてたはず。
 あぁやばい潰されるって衝撃に耐え痛みに目をつぶっただけだ。そう、ただそんだけの授業中のささいなアクシデントだったはずなのに。

「なのに、ここどこだよ?!」

 そう叫んだ俺の声に返事は当然なかった。しかも、体育館にいたはずの俺の身体は何故か水つーか湯の中に浮かんでいるのだ。うーんミステリーを通りこしてもはやホラーだね。
 現状を考えるに、見えている天井の石材(大理石みたいなもの)とか日本じゃない。うん、つまりここは異世界って奴だろうと思うわけ。日本、いや地球の技術じゃ一瞬にして体育館から水の中に人間を移動させらんないからね。

 まぁ、そういうわけでさっきのモノローグになったわけなんだよ。

 俺は若干まだ混乱しつつも、何やらいい匂いがするお湯の中で立ち上がって少し歩いてみた。だいたい深さは胸くらいで、そのお湯の水槽…たぶん風呂は、全体的に石でできているみたいだ。何でこんなとこに飛ばされてたんだか分からないが、とりあえず今のところは危険を感じなかった。
 しかしバスケの試合をしていたので体育服に薄いチームウエアを着ていた俺は、水分を含んだ衣服のせいで動きにくい。かと言って脱ぐわけにもいかずに途方に暮れていれば、遠くの方から話し声らしき音が近づいてきた。

「まったく、お前をあてにした俺が悪かったんだ。」
「…ですから、確かに召喚はできたんですって!ただ、何故か魔法陣から離れて召喚されたらしくて今城内を捜索させておりますので…」
「あー、分かった分かった。うぜぇんだよお前は。とにかく俺は準備するためにさっさと風呂に入ってくるから、ちゃんと見つけてそちらでも用意させとけよ。」
「はい、殿下!かしこまりました!」

 不思議な事に、湯気の向こうで話している言葉は日本語だ。いや、もしかしたら日本語に聞こえているだけなのかな、こういうのって割とお約束だし。
 図書館でいくつか読んだことのある異世界旅行物語なんてのを思い描きながらそんな事を考える、
 会話の内容からして、どうやら召喚した俺が決められた場所に現れなかった事を言っているらしい。そして、明らかに上下関係の会話であり、上と思われる男は『殿下』と呼ばれているようだ。
 そんな風に呼ばれるのって王族っていうやつかなぁなんて、ぼんやりと考えてしまった俺は、湯気を抜けて現われた男前が俺を見て目を丸くした事になんて気づきもしなかった。

「…うーん、もしかしてここって王様のお風呂だったりすんのかなー?」
「神子は聡いようだな。しかし残念だが陛下ではなくその息子である俺の浴室だ。」
「へー…って、うお?!」

 背後から返答された言葉に、俺は慌てて振り返る。と、視線の先に先程の声の主であろう男が涼しげな顔をして立っていた。
 石の風呂にこれから入るつもりなのか、逞しい身体を惜しげもなく晒し、申し訳程度にまかれている腰巻き。まるでギリシャ彫刻のような肉体に息を飲むが、俺は数秒後慌てたように顔を左右に振った。

 同性の裸に見とれてどうする、俺!

「しかし、こんなところに現われていたとはな。」

 ザブザブと音を立てながら風呂へと入ってきた『殿下』は、俺の傍まで近づくとじっと見下ろしてくる。
 コンプレックスを持つほどでもないはずの170程の身長の俺が遥かに見上げなくてはならない身長を持つその男は神話の彫像のような肉体だけではなく、その顔までも整っていた。
 金色の髪、欧米人のような白めの肌色に鼻は高く彫りが深い。厚くも薄くもなく少し微笑みを象っている唇、切れ長の瞳に上がり眉は男らしい。きっと女性に困らないだろう事は一目瞭然で、平凡な俺にとっては文字通り別世界の人間だ。
 何より、今まで見たこともないような真っ青な色をした目は印象的だった。何故かは分からないが『殿下』は俺がぽかんとしている間も目の前から離れようとせずに飽きることもなくこちらを見ていた。

「…あ、あの」
「あぁ、あまり見ていては恥ずかしいか。しかし神子の世界では、着衣のまま入浴をするのか?」
「え、あ、いや。これは気づいたらここに浮かんでて…」

 着たまま風呂に入ったわけじゃ、と言いかけた俺は次の瞬間仰天した。『殿下』がその腕で俺を引き寄せて、胸元に抱きしめたからだ。
 立派な胸板にぎゅうぎゅうと顔を押し付けられて、自分の貧相な身体が情けなく感じられる。というか、何故に抱きしめてんの?

「ちょ、なっ、何?!」
「…うん、お前で良かった。ちょうど収まりもよい。うむ、体の相性もやはり悪くなさそうだな。」
「へ、は?」
「神子の証の黒髪黒目はいいとして…顔はまぁどこにでもいそうだな。しかし可愛げはありそうだし、房事は恐らく無知だろうから俺がじっくり教えればいいか。」
「え?」

 どこにでもいそうな顔だなんて言われるとは失礼な話だが、実際事実なのだから文句の言いようもない。しかしそれ以外に言っている言葉がどうもおかしい気がして、俺は押しつけられた胸元から無理矢理顔を上げてみた。

「…あのー?」
「ん、どうした?」
「何の話をなさっているのでしょうか?」

 当事者らしき俺にはさっぱり要領を得ない呟きばかりなので、思い切って聞いてみる。すると男前な『殿下』はにっこりと、女性ならノックアウトされるだろう微笑みで言ってくれたのである。

「あぁ、俺とお前の結婚生活の話だ。」

 その言葉に一瞬ぽかんとした俺が、数秒後絶叫したのは言うまでもない。


....to be continued


2011/02/09





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