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消去法でもいいじゃない
事後承諾でもいいじゃないの続き

美形王子×平凡高校生 / 異世界トリップ




「まぁ落ち着け。叫ぶ気持ちも分からんでもないが、あまり騒ぐと近衛騎士が乗りこんでくるぞ。」
「…こ、これが落ち着いてられるか!つか俺男だし!」
「あぁ、そんなものは分かっている。今しっかり確かめてるしな。」
「確かめ…ちょ、あんたどこ触って…っ!」

 そうだった。俺との結婚がどうとか言った男前は、落ち着けとか言いながら未だ俺の身体を抱き締めていたのだ。しかもいつの間にか大きな掌は俺の太股を撫で回している。

「うむ。薄付きではあるが筋肉もついているな。身体は柔軟な方か?」
「いや、人の話聞けって!」
「神子の性別など気にしても意味がなかろう?それに案ずることはない。俺は上手いぞ。一番重要なのは、互いの身体の相性だしな。その点、炎属性の俺と光属性のお前なら何も問題はない。マナもこんなに馴染んでいる。……理性を保ったままでいるのがつらいくらいだ。」
「ひゃっ…ちょっ…離せよ!」

 意味の分からない言葉を言いながら、『殿下』が俺の首筋をぺろりと舐め上げる。ぬるりとした感触に気持ち悪さじゃないものを感じたなんて、絶対そんなの認めない!
 身の危険を今頃になってひしひしと感じ始めた俺は、できる限りの力を持って『殿下』の腕の中から逃れようともがいた。

「…何故拒む?別に命を脅かしているわけでもないのに。」
「いや命じゃないけど何かが危ないだろ!?」
「…なるほど。神子の世界は貞操観念がしっかりしているようだな。」

 必死の声に『殿下』はくつくつと笑いながらも拘束を緩めてくれたようで、俺はその隙にバシャバシャともがくように風呂の中を移動した。視線の端に見えた青い瞳が少しだけ寂しそうに見えるのは気にしたらいけない。

「神子、そんなに離れるな。こちらへ。」
「…えっ、えっと!俺まだここがどこかも知らないんでさ、どんどん話進めないでくれよ!そもそも俺はミコって名前じゃねーしアンタの名前も知らない。」
「あぁ、そうだった。名前をまだ聞いていなかったな。」

 忘れていた、と『殿下』は俺に向けて微笑みかけてくる。それがやけに甘い気がするのは気のせいだと思いたいが、さっきの言葉からすると本気かもしれない。だとすれば、本当に貞操の危機だ。

「俺の名は…」
「殿下!何者かがこちらに侵入したらしいとの報告が!」
「…ちっ」

 俺に名乗ろうとしていた『殿下』の声に重なる男の声。それに邪魔されたせいだろう、彼は俺から目を離して明らかに舌打ちした。
 さっきから見ていると、彼は俺のイメージにある王族とは全く違うようだ。優雅さとか品みたいなものはある気はするけど、どことなく学校にいたクラスメートみたいなやんちゃさがある。
 話を邪魔されて舌打ちなんて、本当子供みたいだ。見た目は俺より10歳くらいは違いそうなのに。しかもさっきの話から察するに『王子殿下』という立場なのに。

「…大事ない。少し大声を出したくなっただけだ。」
「は、それならよろしいのですが。それでは、私はこれで…」
「待て。神官長はまだ神子の捜索から戻っていないか。」
「はい、先程一度報告にいらっしゃいましたがまた出て行かれました。」

 話の内容は、恐らくさっき最初に『殿下』が入ってきた時の事だろう。だとしたら神官長って人が俺を呼んだのかな?

「呼び戻せ。神子が見つかった。」
「…!」

 『殿下』が俺を背中に隠すようにして声の方へと告げれば、息を飲むような気配がした。それから『それでは』とその男が下がろうとしたのだろうけれど、『殿下』は待てと彼を呼びとめた。

「神子は俺の部屋へ通す。そちらへ向かうようにと伝えよ。」
「は、かしこまりました。」

 湯気がたちこめる風呂の中では、命令された男の姿は見る事は叶わなかった。でも、『殿下』が俺に向かって進んできたのでここから立ち去ったのだろう。

「…説明役を呼んだので出るぞ。ついてくるといい。」
「…はぁ。」

 『殿下』はそう言うと微妙な返事をした俺に微笑んで、ザバザバと湯を掻きわけるように進み始めた。留まっているわけにもいかない俺はついていくしかない。

「またいらぬ邪魔が入るといけないので告げておく。俺の名はシグルド=クロム=ヴェーディエ=ユランファムだ。」
「…」

 なんかめっちゃ長いんですけど、とは言えなくて俺はその名前を忘れないように数回頭で繰り返した。4つに区切られているが、名とか姓とかどれなんだかもちろん分からなかった。

「…あぁ、長くて覚えられないのなら心配いらない、お前はシグと呼べばいい。」

 どうしようかと考えていれば自然口がへの字になっていたらしい。意を察してくれた彼がそう続ける。

「…え、でも『殿下』って…」
「お前は俺の神子だ。そんな他人行儀な呼び方は許さない。」

 俺にバスタオルらしき布を差し出してくれた『殿下』…シグは長い指で俺の髪をゆっくりと撫でてきた。さきほど太股を撫で回されたのに、その手が嫌ではない事に気づいて不思議だったが、分からない事だらけの俺には、そんな事を気にしている余裕などない。

「名を教えてくれるか?」

 髪を辿る指が降りてきて頬を撫でる。思わず目を閉じると耳に届く声が名を尋ねてきた。心地良いテノールの甘い響きに思わず風呂で温まっているはずの身体がタオルの中でふるりと震える。

「神子?」

 …ああもう、分かったよ。名乗ればいいんだろ平凡な名前をさ!だからそんな甘えるような声で俺に話しかけんな!
 顔が熱くなりながら、俺は口を開く。俺の名前はどこの学校にだって一人はいそうなんだけど、さすがに異世界では珍しいはずだ。

「…た、田中優一…」
「タナカ、ユウイチ。ふむ、変わった名だな。だが、響きは悪くない。」

 シグは日本であれば平凡すぎるほどの俺の名前をそう評しつつも飽きないのかまた頭を撫でてくる。

「して、どちらが名だ?タナカか?」
「え、いや、名前は優一だけど…」
「ユウイチか。…では親しみを込めてユウと呼んでもいいか?」
「別にいい…ですけど。」

 愛称呼びを申し出られ、タオルで髪を拭きながら『別にいいけど』と言いかけてからハッとして言い換える。この男前、太股を撫でまわすセクハラ男だけど王子様らしいのだ。今は2人だけだからいいかもしれないが、きっと他の人がいる前でタメ口とかで会話してたら不敬罪で死刑!なんて事になりかねない。

「ユウ…急にどうした?」
「…え。」
「どうして急に言葉を変えた?…先程までの打ち解けた口調で話してくれないのか?」

 困惑した言葉に顔を上げれば、表情を曇らせているシグがいた。青い瞳が揺れている様は、いい大人なのに捨てられた犬の姿を連想させる。

「…で、でもシグは王子なんですよね?だったら、せめて丁寧語で話さないと…」
「何を言う、ユウは私に対して畏まったりしなくていい。お前は俺の神子なんだから。」
「…あの…、ミコって普通女の子じゃないの?」
「あぁ、確かに神子は女性が多いかもな。そもそも神子の選考基準がマナの量なんだ。マナは男女で比べるとだいたい女性の方が多い。ユウの世界から神子を決める時も、候補には女性もいた。」

 呟くように言った声に返答される。俺はその言葉に思わずタオルで顔を覆ってしまった。なんだか急に胸のあたりがもやもやしてきたからだ。

「だ、だったらさっき結婚とか言ってたし…その人にすればよかったんじゃ…」
「ユウの住む世界ではどうかは知らんが、こちらは同性婚は認められているから性別は問題ない。」
「…でも俺の世界の感覚だったら、王子ならちゃんと女の人と結婚して王様を継ぐのが普通で…」
「ユウ、ちょっといいか?いくら女性でも俺は母と同じくらいの女性を伴侶にする気はないぞ。」
「…へ?」

 突然言われた言葉が理解できずに瞬きをすれば、再びぐいと引かれて逞しい腕に抱きしめられる。

「俺が神子を迎えるよう神託を受けたのは20の時だ。それから毎年この時期に神子の選定が行われてきた。でも今期の神子は数百年ぶりの召喚という事もあり、マナが薄い者が多くてな…」
「へ、へぇ…あ、ちょ…んっ」

 話しながらシグの腕がまた俺の身体のあちこちを撫で始めたので、思わず変な声が出る。しかもそれを楽しそうな笑顔で眺めつつもやめてくれる様子はない。いつの間にか簡単な衣服に着替えたシグにバスタオルごと抱き込まれていたのだ。

「し、シグっ、話するのに触る必要なんてなっ…待て、どこ触っ…ひゃっ」

 未だ着替えていないので、濡れた体操服のシャツをめくられる。長い指がつう、と胸を辿った。ぞわり、と背筋を這い上がる感覚に鼓動が速くなる。

「いい匂いだ…。それでな、俺としては出来れば年下の方が良かったのだが、星詠みが見つける神子はどれもこれも50を越えた女性ばかりだし」
「ご、50?!」
「ああ。当然そういう者は家庭を持っていたな。ある時見つけた最もマナを持っていた神子などは、83のご老人でしかも男性だった。いくら俺が手慣れていようとご老体と同衾する趣味などないしな。」
「…そ、そう…だ、ね…っ」

 頬ずりをしながら話すシグに適当に相槌を打つことしかできないが、どうやら神子を決めるのも結構大変だったんだと言いたいらしい。確かに熟女や爺さんを結婚相手にはしたくないだろうが、それでも自分に白羽の矢が当たったのは謎だった。

「…結局そうして候補を絞っていった最終段階でな、相手の性別よりも年齢と相性が大事だと思ったわけだ。」
「…いや、性別は重要だと思うんだけど。だって女性じゃないと赤ちゃんとかさぁ…?」
「問題ない。それはまぁ後で説明するが、つまりはあれでもないこれでもないと吟味した結果、ユウが一番いいと思ったんだ。年齢も身長も性格も属性もな。」
「…そ、そうなんだ…?」

 だとしたら、いろいろ考えて俺がいいって思ったんだろう。そういうのなら悪い気はしないかも、と俺はちょっと嬉しく思っていたのだが、シグはそうだ、と言いながらはぁと大きなため息をついたのだ。

「俺より小さくて可愛くて素直そうで光属性。なにせ他は年増や派手な女や爺様しかいなくてなぁ…ユウがいてくれてよかった。」
「…」

 ───あの…それってさぁ、選んだんじゃなくて残ってたって言わないか?




....to be continued ?


2011/02/26





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