2010年 Christmas SS





 キラキラと頭上に輝くのはバカラのシャンデリア、広間の中央に置かれたクリスマスツリーは本物のもみの木らしい。
 その周りに置かれた丸テーブルには上質のクロスがかけられ、普段庶民の生活ではお目にかかれないような御馳走が並べられていた。


「メリークリスマス!」

 螺旋階段の上でグラスを掲げている人物の声に、周りからも次々に『メリークリスマス!』の声が上がる。

「こ、これがセレブなの…かっ?!これがっ、ブルジョアかぁああ!おのれ金持ちぃがぁぁぁ…ふがっ!」
「うるせぇぞ総司、お前もそこそこボンボンだろうが。いいから黙って食っとけ。」

 屋敷に入った時からずっと続いていた竹野総司のマシンガントークに、恋人とはいえさすがにまいったのだろう竜童龍也からの突っ込みが入る。文字通り、口に地鶏の唐揚げを突っ込むという行動でだ。

「…ひゃのひぇ、ひぇんは…!」
「まぁまぁ、ソレなかなかうまいだろ。響志郎の屋敷専属に作らせてるハーブ地鶏だとよ。」
「しぇんじょく…。う…うみゃいれふ…」

 咀嚼しながらおとなしく返事をする総司の頭をそーかそーかと撫でる龍也の顔が珍しく緩みっぱなしなのを確かめて、彼の隣にいた桐生院依織は呆れた顔をしながらその場をそっと離れた。ここはその場に同席して邪魔をするよりは離れておいたのが得策だ。あの変人な腐った後輩は二人だけの時は割と素直になるらしいから。

 そんな思惑を持った依織の行動を知ってかしらずか、龍也は総司の餌付けを続行するべく皿にいろんなものを持って恋人の耳元に話しかける。

「総司、立食もいいがあっちで二人ゆっくり食うか?これだけあれば足りるだろ。なくなったらまた取りに来ればいいしな。」
「…んぐ?!…え、ぇーと…了解、しましたぁー…」

 総司曰く龍也の声は凶悪なエロボイスで、耳元で囁かれると力が抜けるらしい。驚いて唐揚げの残りを飲みこんでしまった彼は龍也の顔を見上げると、周りに見知った者がいなかったせいかぎこちなくも頬を染めて同意する。
 気を良くした龍也はその肩をしっかり抱き寄せてみたが、抵抗がないところを見るとどうやら美味いものと声の威力で恋人は無事陥落できたようだった。



 風紀委員長カップルから背を向けて目当ての人間を発見した依織に、相手の方も気づいたらしく皿を片手に手を振ってくる。

「あ、いおちゃんいたぁー」
「依織ちゃん、どこ行ってたん。姫がべそかいとったで〜」
「お、大井出先輩っ!」

 僕泣きべそなんかかいてないです!と必死で言う磯辺環輝はパーティ慣れしてないのかどこか緊張感を持った顔をしていた。

「すまんすまん。姫はこないな場所は慣れんかー?でもほら、会長のステディなんやから堂々とせんとな?」

 撫で撫でしたるよーと笑う大井出鉄之助に、やめてください!と焦る環輝の姿が微笑ましい。依織は口元が緩むのを止められなかった。

「…依織ちゃん、なんてかわぇ…ぐふっ」
「お、大井出先輩?!い、いおちゃん殴ったりしちゃダメだよ…!」

 当然惚れている以上その笑みに見惚れる鉄之助だが、間髪入れずに脇腹の正確な場所に重い拳を決められてしまう。あわあわする環輝に対しては綺麗な笑みを浮かべたままに依織はテーブルの上のドリンクを手にした。

「楽しんでいるか?」
「う、うん。ちょっと僕がいるには場違いな気もするけど…楽しいよ。」

 こんな大きなお屋敷とか柄じゃないから緊張しちゃうね、なんて苦笑する環輝だ。そんな顔すら可愛らしい環輝の頭を軽く撫でてやれば、猫か犬のように目を細めてそれを受けている。
 しかし、しばらくそうやっていればふと刺さるような視線が届いて彼は手を止めた。

「いおちゃん?」
「…あぁ、なんでもない。」

 視線を送った人間なんて分かり切っている。だから依織は撫でる事を再開する。
 何故なら、環輝がその視線に気づかないなら一日こうして傍にいて隠したいくらいなのだ。
 大事に成長を見守ってきた可愛い弟同然の環輝を、横からかっさらった奴の視線から。

「姫、次は何を食いたいん?俺取ってあげるよーん。」
「え、と。さっきから僕ばかり食べてますよ。先輩はいいの?」
「おう、おおきに。姫は気づいとらへんかもやけど、俺めっちゃ食うとるよーん。」

 いつの間にか復活した鉄之助は、自分の事を気にかけてくれた愛らしい後輩に礼を言い、小さめの皿にひょいひょいと食べるものを乗せて差し出す。
 それを受け取ってありがとうございますと礼を言う環輝だが、ふと辺りを見渡して依織が危惧していた相手に気づいてしまった。

「よぉ。」
「…あ、先輩…」

 本日のクリスマスパーティの主催者である、生徒会長にして環輝の恋人である神威崎 響志郎だ。
 ブラックのタキシードに、シルバーの襟元。チーフはメッシュの色と同じ赤。すらりとしたスタイルにはとても似合っていて、環輝は鼓動が速くなるのを抑えられなかった。

「あ、あの、お、お招きありがとうございますっ」

 緊張で吃ってしまいながら下げた頭に届くのは、優しい笑い声。少し赤くなった顔を上げれば、いきなり耳元でごめんなと囁かれ目を見開く。

「えと…何が、ですか?」
「あぁ、気にしていなかったか。いや、タマを迎えに行こうとしたんだが小猿に捕まってな…なんとか真田に押しつけてきたんだが部屋に行ったらすれ違いだったんだ。」
「ほぇ…そうだったんですか。で、でも僕はこうして龍也さんといおちゃんに連れてきてもらったんで大丈夫です。」
「あー、それはそうだろうけどな。俺が一緒に連れてきて、屋敷を案内したかったんだ。愛しい恋人だしな?」
「…は、はぅ…」

 こちらを蕩けさせるような甘い視線を向けながら『愛しい恋人』などと言われた環輝は、染まっていた頬だけでなく顔中を真っ赤にした。そんな可愛らしい様子を見せられて響志郎は満足そうに目を細める。 しかし背後でこほんと咳払いが聞こえて、その顔はすぐにむっとしたものに変わった。

「依織、いたのか。」
「いましたよ、さっきからずっと。お招きどうも有難うございます、神威崎会長。拝見したところ今日は生徒以外にもお客様がおられるようですが、御挨拶されなくていいんですか?」

 案にどっか行けと言っているのは明白で、さすがにそれを理解した環輝がおろおろしているが響志郎は余裕の笑みで答えた。

「…無粋な奴だな。今日くらいは譲れよ。可愛い従兄弟を泣かせたくはないだろう?」
「会長かて別の意味で泣かすんやろー?なー、姫。」
「ふぇっ、大井出先輩、事態を悪くしそうな事言わないでくださいぃー」

 楽しそうに突っ込みを入れた鉄之助に環輝が悲鳴のような声を上げる。それを聞いた依織は眉を跳ねあげ、鉄之助をキッと睨みつけた。

「テツ、お前失言にも程があるぞ。仮にも生徒会長を前にそんな下品な言い回しを…」
「へっ?今のって俺怒られるんはそっちの意味なん?!」
「別に間違いじゃないから、俺は大井出に文句はないぞ。むしろ吹聴して回るがいい。」
「貴様ッ!」
「うわーさっすが会長、余裕やねぇ。」

 依織は思わずいつもの癖で抜刀しようとするが、今日の服装には帯刀するベルトをつけていない事にハッとし、ニヤリ顔の響志郎とそれを感心するように見ている鉄之助を見比べた。それから、その横でハラハラしている環輝を見ればその肩を鉄之助がぽんと叩く。

「せっかくのクリスマスなんやから、会長と行きたいんやろ。依織ちゃんも今日くらいは許したってぇな。」
「テツ、しかし…!」

 まーまーと今度は依織の肩を叩く鉄之助は、『せっかくだから姫も自由にさせてやり、そんかし俺が付き合うで?』なんて柔らかく笑う。

「なぁ姫。」
「…はい?」
「さっき姫、中庭のツリーが綺麗だって言うとったやん。会長さんに見せたかったんやろ?ほら、依織ちゃんは俺に任せて行ってきぃや。」
「あ…ありがとうございます!」

 気をきかせたらしい鉄之助の言葉に依織は観念し、響志郎を再びギッと睨みつける。

「今日は連れ去ったりしたら、次から容赦しないからな。」
「いおちゃんっ!」
「…それも悪くないな。だが、それは別の機会にしておくさ。生憎お前の言う通り今日の俺は忙しいからな。」
「…違えれば、愛刀の錆にしてくれる。」
「随分と物騒な事を。まぁ、分かったと返答しておこう。」

 依織の声をとがめる環輝をいいからと制して、響志郎は苦笑交じりに返答する。
 それ以上その場にいたくないのだろう、『ほら行くぞ、』と鉄之助を連れて依織はその場から離れて広間から出て行った。




中庭
テーブル席へ


2010年クリスマス記念SS

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