2010年 Christmas SS

※お酒は20歳になってから!(未成年の飲酒表現があります;)






 広間の隅のテーブル席に二人腰かけて、同じように何組かのグループが着席と立席で歓談しているのに混じっている。
 先程から総司は必死で食事をする事に集中しているが、龍也はそんな恋人をワイングラス片手にのんびりと眺めるばかりで十分なのか、特に会話をしようとはしていない。

「こんばんは、竜童。竹野も一緒に来たんですね。」
「…あぁ、真田か。」

 黙々と食べている総司の隣に座っていた龍也の元へやってきた人物がにこやかに声をかければ礼を心得た龍也が席を立たないはずはなく、長身が自然総司の皿へと影を落とした。

「…あ、副会長様!」

 慌てたせいでガタガタと椅子を鳴らして立ち上がる総司に生徒会副会長である真田雅は白い手袋をした手を口元に当てクスクスと笑う。そんな所作さえ優雅に見える麗人と隣に立つ美丈夫の姿に、総司の腐男子モードが発動しないわけがない。

 しかも本日の雅は夜会仕様のチャイナ服に、艶やかな長い黒髪を胸元で一つにまとめている。惜しむらくは彼が男であるため、服装が男性用でパンツスタイルな事くらいだろう。
 先程まで共にいた依織も流れるような黒髪をしてうなじあたりで括ってはいたのだが、艶やかさがまるで違うのだ。

「…ま、眩しいです副会長様!しかもなんか竜童委員長とツーショットとかナニコレ誰得俺得?!俺様と見せかけた包容攻めに実は健気とかの付加属性のついてる腹黒美人受けぇぇえ!ささ、僕などには構わず二人で存分にいちゃついてく…っ?!」
「ふふ、君は相変わらず空気を読まない子だね。うるさいですよ?」
「うはぁ!腹黒いけど美人の微笑みぃぃ!!」
「なぁ総司…お前の恋人は、誰だか後でじっくり教えてやろうか…ああ゛?」

 マシンガントークを飛ばす恋人を見降ろしていた龍也は、その内容が自分と真田の事だと分かるや否や総司の肩をぐいと胸元に引き寄せて耳元でドスのきいた声でそう告げた。同じく妄想の糧にされたもう一人である副会長も黒い微笑みを浮かべている。

「うひぃぃ?ややややや!」

 当然青くなった総司と実は楽しそうな顔をしている龍也のやり取りに、隠れ腐男子な真田は内心笑いが止まらなくなっているのだが、笑顔に隠されたその本心に気づく者はこの場にはいないだろう。

「い、いぇー今のはつまりほら、妄想が口から流れ出たと言いますか…」
「妄想に俺を登場させるなら、お前と絡めろ。」
「いや、だからね先輩、僕自身が関係すると全然萌えないんですってば。」
「てめーの事情なんか知るか。そうでなくても、普段から他の野郎どもばっか見やがって…誰がお前の男か忘れたんなら、今ここで分からせてやってもいいんだぞ?」
「え、こ…まっ…んぅっ!」

 総司の顎をくいと上げさせて不機嫌な台詞を投げていた龍也は、必死で腐男子論を口にする彼の唇にキスをした。だがその動作は言動の乱暴さとは違い、ただ唇を数秒押しつけるようにゆっくりと重ねるものだ。
 ただし、離れる際に総司の上唇を舌で舐める仕草はまさしく肉食獣のそれであったが。

「…な、ななな…っ!」

 何をするんですか、と言えない総司が龍也の顔を真っ赤になって見上げる。二人を見ている雅はついて耐えられなくなって、震わせていた肩のままに笑い出した。

「…は、あはははは!」
「ふ、副会長様?!」

 焦る総司の先には、身体を折って笑い出している雅の姿。それからその様子をぽかんと見ている生徒達の姿がある。

「ふ、くく、ほんとに…君は面白い子ですね…っ」
「え、えええええ?僕のどこにそんな要素が!!僕はそこらへんにいる普通の平凡な一高校生でしかありませんよ!多少腐男子というカテゴリには属しておりますが、しがない男子でございますよ!そう、けして磯辺きゅんのような可憐さもありませんし!かと言って蓮山君のような破滅レベルな図太い性格もしてませんよ?!そもそも俺様何様鬼の風紀委員長様が僕などを恋人にしようなどという意識を持つ事自体が天変地異の前触れなのです!きっと何か変なものを口にされたに違いないんですー!さささ、副会長様の美しいお姿で目を覚まさせてやってくださいませ!」

 さぁ!と唯一自由になっていた手を差し出してまだ笑っている雅の手を掴んだ総司は、龍也の腕にその手を触れさせる。
 そんな事をされようと二人の感情が変わるわけもないのだが、総司としては少しでも現実から遠ざかりたかったようだ。

「…お前、今さらりと俺の事まで言ったな…が、しかしだ。てめーは惚れられてる自覚はあったんだなぁ?意識してくれて嬉しいなぁおい?」
「ふふ、目を覚ますだなどと…そんな事されたら本当は誰が困るんでしょうね。天変地異と言いながらその袖を掴む手を離さない事をどう説明するんですか?」
「…うわぁ、ダブルで痛いところを!!」

 所詮小者はこの二人には適わないのだ。総司は即座にそう理解すると雅の手をぱっと離して龍也を見上げた。

「い、いいいちおう僕は龍也先輩の恋人(仮)ですので?」
「なんだ『かっこかりかっこ』って。正真正面俺のモノだろ?昨夜はあんなに腰振っ…ふが」
「ぎゃあああ!!しゃらーぷっ!!それ以上話すと僕の中のいろんなモノが崩壊してしまうので本気でやめてくださいぃぃい!!」

 龍也の言いかけた言葉を阻止するべく総司は真っ赤な顔をしつつも背伸びをしながら恋人の首にしがみつき自身の手で続く声を封じ込めた。

「…」
「え、えーと先輩はちょっと飲みすぎているんですよきっと!うん、だから夢と現実を取り違えてですねっ!!」

 雅相手に口にした必死の言い訳も、彼らを見ていた周りにすれば今更の言葉である。総司の視線の先で笑う副会長も当然既に知っている事なので、下手な言い訳には適当に返答を返した。

「はいはい、言い訳はともかく竜童相手にそんな事ができる時点で君は特別ですよ。」
「そそそ、そんな事はっ!!」
「まぁ、いくら君でもその行動は如何でしょうね?この後どうされるのかとても興味深いです。良かったらネットワークに報告してくださいね?」

 頑張ってくださいね、と雅からにこやかに告げられた言葉に総司は意味を理解できず一瞬ぽかんとする。しかしその疑問はすぐに解消されることとなった。

「…い゛っ!」

 龍也の口に当てられていた方の総司の腕がギリギリという音を立てたのだ。痛みに慌てて離せば、自分の腕を締めあげながら悪い笑みを浮かべた恋人と目が合った。

「いい度胸だな総司。さて…今日はクリスマスイブだし、これから戻ってプレゼント開封といくか。」
「…え、プレゼントはさっきお渡ししま…」
「アレも貰うが、ここにもあるだろ。」
「…こ、ここ…?」

 何の事か予想はついたけれど認めたくない総司がわざとらしく首をかしげれば、龍也は掴んだ総司の手を口元へ持っていくと、ゆっくりとその手の平を舐め上げる。
 その艶めかしい行為に小さく身体を震わせた総司は、恋人の瞳が捕食者の色で染まっている事に気づいてしまう。

「あ、あのー…」
「こんな大勢の前で俺の口を塞ぐとか、当然詫びはしてくれるんだよな?ん?」

 頭上から告げられる声に、肌が粟立つ気がして思わず首を左右に振る。それを拒絶と取ったらしい龍也は、総司の腰をぐいと引き寄せて耳元に唇を押しつけた。

「今日は俺がいいと言うまで付き合わせるからな?」
「!」

 やると言ったらやるのが竜童龍也である。それを嫌と言うほど知っている総司は手を引かれ広間から連れ出されていくしかなかった。
 道中、赤い顔をして文句をぶつぶつ言いながらであるがついてくる恋人に達也は笑みを止める事ができなかった。握られた手は緩い力であったのに、無意識に自ら強く握り返していることにきっと総司は気づいていない。ふりほどかれないそれは肯定の証だった。



fin




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